ルネ ラリック 回顧展 - 華やぎのジュエリーから煌きのガラスへ

開催場所は、東京 六本木にある新国立美術館。この建物の設計は、黒川紀章氏。入口門を入ると、波のようにうねる、一面ガラスに覆われた美しい曲面の外観が私たちを迎え入れてくれます。巨大ガラスのオーナメントに圧倒されると同時に、周辺の緑地は、心を落着かせてくれます。
天才デザイナー、ルネ ラリック(1860-1945)が登場するのは、カルティエが繁栄した時と同時代のベル・エポック時代(1870-1914)です。カルティエは、近代の高級宝石店、グラン・メゾンのひとつですが、それに対してラリックは、アトリエ風の店構えを特徴とした個性的なデザイナーでした。
ラリックの宝飾作品は、ダイアモンドやエメラルドなどの貴石を使うジュエリーとは違い、宝石以外の素材、エナメルやガラスをも使用して造形表現に主眼を置いた、当時としては新しいタイプのジュエリーでした。このガラスを使った作品は、後のガラス工芸作品にも大いに影響を与えています。
ラリックが残した、スケッチやメモ書き、デザイン画も展示されていましたが、その細かいスケッチとメモ書きからも、納得がいくまで丹念に作品と向き合った姿が思い浮かばれます。
作品になるまでの工程は、デザインのアイデアが浮かぶとすぐにスケッチを始め、デザインのバリエーションまで考えました。アイデアが固まると、制作技術面で可能かどうかを職人たちと話合い、問題がない段階で、下図をもとに粘土、または石膏で原型を作り、それを金属鋳型にし、最終的に工場で生産されていくという形をとっていたようです。
自由な色と形を作り出せるガラスの特徴を充分に生かし、その細工は繊細で丁寧に施されております。作品のモチーフは、身近にある動植物が多いですが、ラリックの豊かな創作力には言葉もありません。

「ケシ」 ハットピン 1897年
細かく観察されたケシの花のスケッチをもとに作られた作品。奥様への贈り物とあって、心を込めて作られたのが伝わってくるようでした。薄緑色のガラスの花びらと金で表した脈の部分が、とても綺麗な色合いです。ケシはラリックの好んだモチーフのひとつとあって、ジュエリーからガラス工芸品を通して、数多くの作品がありました。

「枯葉」 ブローチ 1899-1903年頃
枯れ葉を美しいモチーフにしたことに、驚きでした。青緑色のガラスの葉とグリーントルマリンの配色が互いに嫌うことなく生かされています。

「パンジー」 ブローチ 1903-1904年頃
薄オレンジピンクのガラスの花びらと薄緑色のガラスの葉、そして金色ラインのアクセントが絶妙です。
※ 以上3点の画像は、「ルネ ラリック」 展 カタログより拝借しました。
印象に残りましたジュエリー3点、実物は本当に綺麗な色合いで、しばらく見入っていました。生涯をかけてデザインをしてきた数多くのジュエリーとガラス工芸の作品群。作品に向き合うラリックの哲学をも感じとれた、想像以上に見ごたえがある回顧展でした。
ラリックの生きた時代の歴史背景については、宝石 鉱物 金属 + 装身具のおはなし展 - カルティエ宝飾史とその時代周辺の中でも触れています。